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我らの貴婦人ノートルダム


パリ、いやフランスの象徴とも言えるノートルダム大聖堂火災のニュースが世界を巡った今週。

一夜明けた火曜日の朝9時前、多数のTV局と見物客で対岸の遊歩道はごった返していた。大聖堂への橋はもちろん封鎖されていて、皆、対岸から無言で大怪我を負った「Notre Dame(我らの貴婦人)」を見守っていた。
尖塔と周囲の木の部分はニュース動画で見た通り崩れ落ちていて、言葉を失くしたが、それでも「我らの貴婦人」はいつものように毅然と立っていて、「まだちゃんと立っている」と、なんだかホッとした。悲しいと言うよりも、「すごい、まだ健在だ。そしてやっぱり綺麗だ。」これが私の正直な感想だ。
そして、周囲のフランス人も、悲しみに暮れるというよりも、恐らく火災現場を目撃した人とは違って、「ああ、健在だ」と少し安堵した人が多いようだった。

火曜日のニュースによると、再建には数十年、最低でも十年はかかるとのこと。既にフランスの大富豪や大企業から多額の寄付が表明され、各分野のエキスパートによる再建プランも始動し始めたようだ。
ノートルダム大聖堂にはよく散歩がてら行っていて、見る度にその美しさにうっとりするのだけれど、あくまでも外国人の視点で、「”我らの”貴婦人」と考えたことは一度もなかった。フランス人が受けた「自分たちを見守ってくれている、パリ、国の象徴が燃えてしまった」というショックは正直感じていない。
ただ、いつもそこにあって、これからも永遠にあり続けるだろうと思っていた存在が(一部とはいえ)一夜にして燃え尽きたことに対して、なんとも言えない気持ちがこみ上げてきて、火曜日はずっとTVのニュースを追ってしまった。

どうやって再建するのだろう?いつまたあの美しい大聖堂を見ることができるのか?それまで私はパリにいるのだろうか。どうして日曜日にノートルダムに行かなかったのだろう?と。
そう、火災の前日、すぐ近くまで行っていて「足元の桜が綺麗だな、また来週に散歩に行こう」と思っていたのに、その来週が、いつ来るかわからなくなってしまった。そのことが一番ショックなのかもしれない。永遠にあるものなんて何一つないことを改めて思い知らされたことが。

幸いにもノートルダム大聖堂は大怪我をしたが、死んでいない。ノートルダムの顔とも言える二つの鐘楼も西側のバラ窓も、オルガンも、美術品も、聖遺物も無事だ。イエス・キリストが十字架刑に処される際にかぶっていたとされる聖遺物「いばらの冠」も奇跡的に無事だった。
もともと老朽化が進んでいて、修復作業中だった。修復作業中の火災。そしてイースター(復活祭)前の聖週間での火災である。このタイミングでの大惨事、何か意味があるのでは?と、思ってしまう。
フランス人の知人からも、同じ声を聞いた。テロや、政治利用か?という人もいるけれど、私はそうは思わない。
内側からじわじわと人知れず朽ちていき、ある日突然多数の死者を出して崩壊するのではなく、世界を釘付けにしながらも静かに、警鐘的に、一番弱い木の部分が激しく炎上し崩れ落ちた。死者を出さずに。
お腹あたりにぽっかり穴が開いてしまったけれど、「我らの貴婦人」はまだ毅然と立っている。尖塔周辺は遠目からでも黒ずんでいるのがわかるが、それでも青空の下では真っ白で、以前同様の優雅さを保ち、「私はずっとここにいる」と言っているかのように静かに佇んでいる。

失った尖塔部分や、屋根の梁は大量の木で作られていて、森「Forêt」と呼ばれていたらしい。
石材部分は無事残っているが雨や大気汚染にさらされこちらも損傷が激しく見直しが必要だった。今回の大火災でさらに危機的な状況に陥っているそうだ。森は焼かれ、石が残った。でも石も永遠ではない。
根本から見直さないと、いつか完全に朽ちてしまう。その前の警鐘なのだと思った。神様がくれたチャンスなのではないか。

これからどんな風に再建していくのだろう。マクロン大統領は5年で再建と言っていたけれど、5年で本当にできるのだろうか。急ぐべきなのか。
ノートルダム大聖堂はフランス革命や二つの世界大戦も生き延び、フランスの象徴としてフランスの歴史と伝統を体現してきた存在だ。フランス人の誇りでもあると思う。失くして初めて気づいた人も多いのではないかと思う。
フランスの、フランス人のSolidarité(連帯精神) の見せどころ。いつもは超個人主義だけれど、いざとなった時の団結力はすごい人たち。
日本だったらどうだろう?日本のシンボルは?なんてことも考えながら、火災の翌日以降、毎朝、「我らの貴婦人」の生存を確認しに行っている。負傷してもなお毅然と佇む「我らの貴婦人」に、毎回パワーをもらっている。復活して逞しく生き続けてほしい。できると思う。

2019年4月16日

ノートルダム - 4_16

2019年4月17日

4_17

2019年4月18日

ノートルダム - 4_18

最新のデジタル技術を駆使して大聖堂の建築データが4年前にデジタル化されていたようで、これをもとにすればほぼ完璧に再現することが可能であると言われている。最先端の技術を駆使して、フランスの歴史と伝統と心を守り、次世代へと残していく。いい見本になって欲しい。
自然破壊やテロ行為により様々な人的破壊が繰り返される今日。今回の大火災は事故として捜査が進められている。そうであってほしいと願っているし、仮にそうでなかったとしても、大聖堂の崩壊は避けられたということに意味を見出したい。
ピンチをチャンスに。早急にする必要はないと思う。時間をかけてでも、これから何百年、何千年と残せるものを人間の英知と最先端のテクノロジーと、団結心でもって「再建」してほしい。

ノートルダム大聖堂の復活と存続を心から願います。
そして、これを機に、他国の、テロ行為や環境破壊で瀕死状態にある世界遺産、自然遺産の保護にも関心が向けられ、新しいものを生み出すこと、前へ進むことにのみ注力するのではなく、次世代へ何を残すかを、少し立ち止まって、より多くの人が考える機会になることも願います。

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